53〉貧農に訴う

K Bednyakam(1903)
レーニン、ニコライ

成立と構成

本書はロシア社会民主労働党(今日の共産党の前身)の綱領をレーニンが極めて深切に極めて平易に解説し、闘争の戰術を教えたものであり、その当時『何を為すべきか?』*と共に秘密に出版され、廣大なロシアの農村に頒布されて、農民たちに愛讀された重要な歷史的文献である。
「社会民主主義者は何をよくするかについて農民に説明する」という副題がついている。その構成は、第一章「都市労働者の闘争」、第二章「社会民主主義者は何を欲するか?」。第三章「農村における富と貧困、財産所有者と労働者」、第四章「中脳はどこへ行くべきか?財産所有者および富農の側へか、又は労働者および無産農民の側へか?」、第五章「社会民主主義者は全人民および労働者のためにいかなる境遇改善を達成するか?」、第六章「社会民主主義者は全農民のために、いかなる改善を達成するか?」、第七章「農村における階級闘争」、の七章からできている。

内容

第一章では都市労働者の闘争に農民の注意をうながしている。そして、その闘争の先頭に立っている者はロシア社会民主労働党であることを述べ、貧農はこの党について本当のことを知らねばならない、と言っている。
第二章は政治的自由とはなにか?という説明から始まっている。政治的な名義上のみの解放では不完全であるから、経済上の実質的な解放の為に戰わねばならないことを説いている。そして働く人民は「自分で自分を解放するほかない」ことを教え、そのためには農民と労働者との團結が必要であると言い、さらに、「萬国のプロレタリア、團結せよ!」という言葉について説明している。この賞の終り絵は、社会主義とは何か?について簡明に教えている。
第三章では、農民の貧困の原因、貴族的大地主とツァーの農民搾取、農村の階級構成のことを明らかにし、第四章では、中農の立場の不安定なことと、それに対する党の態度とを説明している。
第五章では、党が全人民のために、特に貧農のために、そしてまた都市および農村の労働者のためにどういう改善を達成しようとしているかを説明している。
第六章は「全ての勤労者の完全なる解放のために、貧農は都市労働者と同盟して、全ブルジョアジー(その中には富農も含む)に対し闘争を敢行せねばならない」という言葉で始まっている。そしてあらゆる奴隷状態と貧窮とから逃れることは、全てのブルジョアz-を打ち倒した後にはじめて可能なことであるが、それより前に逃れられる奴隷状態もある、と言って当面の戰術を教えている。全ロシアの労働者と全貧農とは両手をもって二方面に、卽ち一つの手をもって、全ての勤労者と同盟して全ブルジョアジーに対する闘争をなし、他の手をもって、全ての農民と同盟を結んで、農村における役人との闘争を、また農奴制を强いる地主との闘争を遂行しなければならない、――と教え、農奴的奴隷状態を廃止するための当面の手段は次の二つであると言っている。
1.農村における農業労働者と最貧の農民、ならびに富農と地主とによって依頼された人々から、自由に選ばれた裁判所の設置。
2.自由に選ばれた農民委員会。この委員会はあらゆる濃度制度の遺物の廃止の為の手段を審議し採用する権利を持つものである。
レーニンは更に具体的な細心な注意を與えて次のようなことを説いている。――最初の一歩を次の一歩と、そしてまた最後の歩とを、はっきり区別せねばならぬ。農村における最初の一歩は全体としての農民の完全な解放である、完全な権利の獲得であり、農民委員会の設置である。そして、農村と都市とで踏む最後の歩は、全ての土地と全ての工場とを、農民と労働者との手に無償で収めることである。最初の歩と最後の歩との愛大には澤山の闘争が或る。最初の歩と最後の歩とを混同するものはこの闘争を妨げるものであり、貧農の目をふさぐものである。(この際、レーニンは人民派と社会革命党員を頭においている)貧農は最初の一歩を全農民と一緒にふみ出す。だが最後の歩を全農民が一緒にふみ出すことは決してない。その時には全富農は農業労働者に反抗して立つであろう。そこで前もって貧農と社会民主々義者である年の労働者との固い同盟が必要なのである。農民に向って最初の歩と最後の歩徒を一緒にふみ出しうるものだと語るものは、農民自身の間に起る偉大な闘争、卽ち貧農と富農との間の闘争を忘れているのである。社会民主々義者は農民に一足跳びに極楽を約束するものではない。まず第一に全労働階級の全ブルジョア―に対する闘争のため、大きな廣汎な全国民的闘争のために、完全な政治的自由を要求するのである。そのためにこそ、黨は小さいが確実な第一歩を指し示すのである。貧農のためのその第一歩は農民委員会の確立である。
第七章は階級闘争とは何か?ということの説明から始め、濃度制度は廃止(一八六一年)されたが、それはごかましであって、貧農は現に農奴的奴隷状態にあることを教え、その状態からの解放は都市労働者と團結して逃走し、専制政治を倒す以外に道はないと説いている。

参考

邦譯には荒川実蔵訳『貧農に與う』があって、レーニン著『農村門相』(改造文庫版)に含まれている。右交庫版は『貧困に與う』のほかに、『ロシア社会民主主義の農業綱領』第四篇を収めている。

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