編著者の序

終戦直後から「自由懇話会」その他の文化園休に所属して民主主義文化運動の一端にたずさわって来た私は、そうした関係上地方の講演会などに出向く機会も少たからずあった。そして講演会のあとや座談会の席上たどで、社会科学の基礎文献についてり質問を受けることも屡々あった。そとで、そうした「初歩的」という意味でも「基礎的」という意味でもエレメンタリイな知識の手引となり得る如き解説書の必要であることは、・私もまたかねがね痛感していたことろである。
そこヘ、図らずも、東峰書風の三ツ木幹人氏から、この種の解題書の編著について頗る熱心な依頼を受けることになった。
そとで、改めて考えてみると、今や諸方面に、殊に戦後の謂ゆる混迷状態から次第に股却して来た青年大衆、とりわげ廣汎な勤労青年の問には、ひたぶるな向学心が盛り上っているのに、さて社会科修関係の文献はといえば、或いは長い間の暗黙政治による波收や絶版とか、また廣範囲に亙る戦災の被害とか、更に終戦後における翻譯事情の困難とか、等々の悪条件のために、昔ならば幾なく入手できていたいわば有り觸れたものに至るまで、今では容易に手にはいりにくくなっている。むろん、戦後に復刊されたものや、新たに刊行されて問題となっているものも他方に少くはないが、線てインフレ高進のために書物の値段もひどく高くなっているので、今度はその方面からの入手難も生じて来ている。いずれにしても、文献入手の上に選擇が必要となっていることは確かである。そろいろ意味でも、ひと通りは心得ておくべき社会科学文献について、その内容のあらましや特色、意義などを解説した謂わば「社会科学文献グイジェスト」とでもいうベき解題書の存在理由は確かにある答である。のみならず、そうした卑近な必要からばかりでなく、研究者各自がそれぞれ自己の能カや必要や現在の立場などの観点から、系統的た讀書計画を立てるような場合にも、そうした解題書によって基礎文献の概貌なり性格なりを大局的に掴んでおくことは、研究上の効果を挙げる点からいつても相当重要な意味をもつ筈である。更に、初歩的・基礎的な知識はすでに「卒業」してしまっている実践人ないし社会人にとっても、時には、その知識の整磁や再編成のために、こうした解題書の存在が参考として役立つこともあり得るだろろ――と、凡そそうした様々の切実な理由見出し得たので、私はこのような―――実際には甚だ責任の重い―――仕事を引受けることになってしをつた。

いま、この仕事で進まてゆく上での私の念願は、日本の正しい民主化のために眞面目に社会科学に志す主として若い人たち、とりわけ勤労青年諸君が、そのエレメングリイな勉強の上で、できるだけ積極的な效果をあげ、少しでもより正しい方向をつかむことが出来るよろにということであり、そのために能う限りお役に立ちたいということである。

因みに、本『解題』には、この「政治・経済篇」に引続いてなお「哲学・教育鱒」や、「文学・藝術鱒」等も豫定されているので,、今後の仕事bをなるべく有意義なものとするためには、これを利用して下さる江湖の方々からの率直な批判や、理解ある助言による御協力が、編著者としては特に願わじく思われるところである。どうか、そういった形で、この謂わば一種の公共性のある仕事が成功してくれることを切望する次第である。

最後に、前述の如く、実際には甚だ重い責任をさえ感ぜしめる本書の性質にかんがみて、特に校閥をお願いした平野義太郎氏が、公私ともに極めて多忙な地位に居られながらも、それを御快諾下さったことに厚く感謝すると共に、他方、実質上での共同労作者として多大の援助を興えられている私の長友、矢川徳光氏、並びに私の年少の同学者である草柳大蔵君などにも、この機会に、心から感謝の意を表しでおきたい。

△九四八年秋

新島 繁

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