68〉労働組合論

レーニン、ニコライ

構成

本書は本来、標記のような題名の下に一冊の書物として書かれたものではなくて、労働組合に関するレーニンのいくつかの小篇と二三の著者からの抜粹によって編集されたものである。レーニンが労働組合だけを取扱ったものとしては、小冊子『再び労働組合問題について』(一九二一年)があるが、ここでは労働組合についてのレーニンの思想の要点の紹介と本書に納められた資料の二三のものについての解説を行うことにする。

主張と内容

労働組合の役割に関するレーニンの見解の要点は次のようなものである。
一、労働組合は、労働者大衆が、資本家に対する日常闘争の実践においてその階級意識を育て上げる学校である。換言すれば、「労働組合は共産主義の学校」である。
二、労働組合は党よりは程度の低い階級結合の組織である。だがその役割は重大である。なぜならそれは、プロレタリアートの党と最も廣汎な大衆とを結びつける帶であるから。
三、労働組合運動における二つの偏向に対して容赦なき闘争を行うことが必要である。第一の偏向は、労働者運動における自然生長性の要素を過大評價し、経済闘争と政治闘争とを相互に分離し、党の指導的役割を否定することである。換言すれば、「段階闘争は政治闘争である」というマルクス主義の初歩的眞理を忘れることである。第二の偏向は、労働者運動における労働組合の役割の過小評價である。レーニンは凡ゆる困難を冐して労働組合を通じて大衆に結びつくことを主張し、労働組合からの脱退を主張するあわゆる論者に対して强硬に反対した。
右のようなレーニンの思想の一般的特色は、彼の起草した『党と組合との関係に関するボルシェヴィーキの最初の決議』の中に次のように定式化されている。卽ち、
「一、社会民主党に経済と往相をプロレタリアートの階級闘争の一組成分子と見なす。
二、凡ゆる資本主義国における経験が示しているように、経済闘争遂行のための労働階級のもっとも合目的的な團体は、廣汎な労働組合である。
三、原罪ロシア労働大衆の内部には、労働組合的團結の强傾向が現れている。
四、労働階級の地位の永続的改善のためと、その本当のかいきゅ的組織を强固にするためとの経済闘争は、この経済闘争とプロレタリアートの政治闘争との正しい結合の條件の下においてのみ達成され得る。
異常の理由を以って、我々は次の意見に一致し、大会に次の如く決議することを提案する。
一、凡ゆる党機関は、党外労働組合の創立を促進し、当に組織されている当該終業の代表者をそれに参加させるように努力すべきである。
二、等は出来うる限り、組合に組織されている労働者をプロレタリアートの階級闘争と社会主義的任務との精神に教育し上げ、以て党はその活動によってこの組合内に指導的地位をかち取り、この組合を一定の前提の下においては結局等に公然と加入せしめる――と言っても非党員を追い出すのではない――ように、努力しなければならない。」
レーニンの著書の中で労働組合運動に関する思想を最も多く含んでいるのは、『何を為すべきか』と『左翼小兒病』*とである。
前者においては、自然成長的労働者運動は、労働組合一本主義であり、しかも労働組合主義は、まさにブルジョアジーが労働者を思想的に奴隷化したことを意味するということ、および、社会民主主義者(共産主義者)の任務は自然成長性に対する闘争であり、ブルジョアジーの翼の下に赴かんとする労働組合主義の自然成長的傾向から労働者運動を引き離し、それによって運動を革命的社会民主主義のために獲得することにある、ということが数えられている。
後者の中には次のようなことが言われている。
(イ)労働組合を基礎としなければ、また組合と党との交互作用を基礎としないでは、世界何処においてもプロレタリアートの発展は行われなかったし、また行われえなかったのである。プロレタリアートによる政権の掌握は、階級としてのプロレタリアートにとり一大前進である。そして党は益々在来の方法のみによってではなくて新しい方法によっても、労働組合を教育し、それを指導しなければならない。その際忘れてならないのは、労働組合は依然と同様常に一個の必要な「共産主義の学校」であり、一国全経済管理を労働者階級(個々の職業にあらず)の手で、進んでは然勤労者の手に永久的に移し行くために必要な一個の労働者連合であるということである。
(ロ)「左翼」共産主義者は、反動的労働組合に加入すべからずという馬鹿げた「理論」を主張している。眞の共産主義者は、大衆のいるところで無條件的に活動しなければならない。労働組合と労働者の協同組合こそ、まさに大衆のいる團体である。共産主義者はあらゆる犠牲を拂い、プロレタリアートおよび半プロレタリアート大衆のいる機関や團体――それらの團体が極度に反動的であろうとも――の中における組織的な不屈な宣傳煽動を果たし得なければならない。
なほ、フランス社会党員に送った書簡(一九二〇年)の中でも、同じことを教えて、次のように言っている。――「我々は革命家や共産主義者が大衆的労働組合から脱退することに反対である。共産主義者は労働者大衆のいる処であれば、どこにでもいなければならない。ロシアの共産主義者は労働組合においては長い間少数派であった。彼らは最も後れた團体、時には胆道的な團体の内部でさえ、彼らの理想のために闘うことを知っていた。我々とフランスにおける同志が、いかなる事情があろうとも労働組合の中から去らないことを要求する」と。

参考

邦訳には『労働組合論』(関東地方労働組合協議会訳、永美書房版)がある。なお、『何を為すべきか』*及び『左翼小兒病』*は、労働組合の問題については熱讀すべきものである。

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